早稲田大学先進理工学部を卒業後、株式会社ピアラに新卒入社。化粧品案件のディスプレイ広告運用を担当し、入社からわずか3ヶ月で単月納品2,000万円を達成した木崎優毅さん。Meta、YDA、TikTokなど幅広い媒体を経験し、現在は社内のシステム整備や自動化、AI活用の推進も担っている。「刈り取り」と揶揄されがちなダイレクトマーケティングの世界に長く身を置きながら、木崎さんはどこか一歩引いた目で、業界そのものを見つめているようなところがある。売上さえ立てば表現は問わない―そんな短期的な刈り取り至上主義が、実は静かにブランドを傷つけていく。木崎さんが実務の中で積み上げてきた「ブランドを壊さずに売る」ための考え方について伺った。
――ダイレクトマーケティングって、正直「押し売り」なイメージを持つ人も多いと思うんですが。
木崎:よく言われますね(笑)。でも僕の感覚だと、ダイレクトってむしろ「攻めない」方がうまくいくんです。気になっている人の疑問や不安を解消して、納得して選べるようにする。無理に押すより、そういう後押しを大事にしています。
――攻めない、というのは?
木崎:株主総会の日に、会場のビルの前で案内している人がいるじゃないですか。「会場はこちらですよ」と、迷わずたどり着けるようにする。購入を検討している人に対しては、あれくらいのイメージなんですよ。
――獲得広告では、何を重視しているんですか?
木崎:僕が大事にしているのは、「購入の決め手をつくること」です。もちろん、獲得広告が商品を初めて知るきっかけになることもありますし、ブランドのトーンや世界観も丁寧に扱うべきだと思っています。ただ、一つの広告に何でも担わせようとすると、伝えたいことがぼやけてしまう。だから、誰に何を伝えれば納得して選んでもらえるかを中心に設計しています。そこを見失って無理に押し出そうとすると、押し売り感が出てしまって、ブランドへの信頼を損なうことにもつながると思います。
――木崎さんはこの業界に長くいらっしゃいますが、振り返ってみて感じることはありますか?
木崎:正直に言うと、ダイレクトマーケティングの勝負って、必ずしも商品力だけで決まる世界じゃなかった気がするんですよ。マーケティングの巧拙が短期的な結果を大きく左右する、という側面が強かったなと。
――商品そのものより、訴求の巧さで勝負が決まっていたということですか?
木崎:そういう場面もあったと思います。隣が言ってないことを言う、という競争になっていた時期もあって。だからこそ、僕らのようにダイレクトを扱う側が、表現の一つひとつに責任を持たないといけないと思っています。
――購入を後押しするうえでも、伝え方への責任があるということですね。
木崎:そうですね。商品の良さをきちんと伝えて、価格も含めて納得して買っていただく。そのための広告でありたいと思っています。 ここから先は、木崎さんが実務の中で積み上げてきた、ブランドを壊さないための具体的な基準の話になっていく。
――話題作りを狙って仕掛けても、思ったように広がらないケースもありますよね。
木崎:ありますね。仕掛ける側の意図が先に立ちすぎると、生活者にはどうしても伝わりにくくなる気がしていて。オーガニックに広がっていくものと、狙って作ったものとでは、届き方が違うというか。これはブランド広告に限らず、ダイレクトの世界でも同じことが言えると思っています。
――意図が先行すると、生活者にも伝わってしまうんですね。
木崎:伝わりますね。逆に、多少仕掛けていても「あそこは面白いことをやってくれる」という信頼を先に獲得できているブランドは強いです。土台となる信頼があるかないかで、同じ仕掛けでも受け止められ方がまったく違ってくるんだと思います。
――信頼の土台がない状態で似たようなことをすると、どうなりますか?
木崎:うまくいきにくいと思います。攻めないダイレクトと同じで、ブランド広告も「今、この打ち出し方をして受け止めてもらえる状態にあるか」を先に見極める必要があると思っています。それを見誤ることこそが、いちばん静かにブランドを毀損するパターンだと思うんです。
――かなりニッチな商材を相談されることもあると思うのですが。
木崎:ありますね。例えばフレンチブルドッグ専用のご飯を売りたい、みたいな相談があったとして。獲得単価や試食のしやすさ、継続購入のしやすさまで含めて考えると、Web広告よりもペットショップに行って、フレンチブルドッグを飼ってる人に直接試してもらう方が、トータルでは早いこともありますよ、と答えると思います。
――ネット広告が向いていない場合もあるということですね。
木崎:はい。単純にターゲットの人数だけでなく、獲得にかかる費用、利益、試食や体験の必要性まで含めて判断する必要があると思っています。ターゲットが狭く、かつ実際に触れてもらう体験が重要な商材だと、店舗や対面のほうが効率的なケースもある、ということですね。一方で、商材や事業の段階によっては、まずオンラインで販売実績を作り、需要を示す材料として小売に提案する、というステップを勧めることもあります。
――オンライン単体の利益だけでなく、小売への展開も見据えて判断するんですね。
木崎:そうですね。小売への提案や棚の維持には、販売実績や継続的な需要を示すことも大切だと聞いています。例えばオンラインで売上やランキングの実績を作り、それを小売への提案につなげる流れは考えられます。オンライン単体では収支がトントンでも、小売への展開につながるのであれば、取り組む意味はあると思っています。
――「ネットが向いていない」と正直に言うのは、勇気がいりませんか。
木崎:勇気はいりますね。自分たちの売上にも関わる判断ですから。実際、以前あるクライアントに、Web広告を無理に続けるより、まずは店舗への営業を進めた方がいいと伝えたことがあります。短期的には僕らの案件が減る提案なので、正直悩みました。ただ結果的に、その商品は小売での実績が評価されて棚を広げることができ、後からオンラインでも動きやすくなりました。自分の専門にこだわらず、別の手段を勧めることがクライアントのためになる、と実感した経験です。幸い弊社にはフルファネルの提案体制があり、社内で連携しながら、その時点で適した施策を提案できる環境があります。
『売れる広告を作る』ことと『向かない広告を止める』こと、僕の中ではどちらも同じくらい重要です。案件を失う恐怖がないと言えば嘘になりますが、そこに正直に向き合うことが、ブランドを毀損しないための確実な基準だと思っています。目先のCVRのために手法を歪めることこそ、最もブランドを傷つける。そうして信頼を積み重ねれば、本当にダイレクトが向いている時にまた頼っていただけるはずですから。
――SNSの中でも、媒体ごとの得意分野ってあるんでしょうか。
木崎:どの媒体にも固有の役割や得意分野があって、そこは優劣というより住み分けだと思っています。例えばXは、話題が他媒体へ連鎖していく特性を持っていて、そこで生まれた話題がテレビやネットニュースに波及していく、クロスメディアの「起点」になりやすい面があります。
――なぜそういう特性が?
木崎:Xは情報の流通スピードが速くて、拡散の起点になりやすい構造を持っているんだと思います。ただその分、意図しない広がり方をするリスクも他媒体より高くなるので、そこは一長一短ですね。他の媒体にも、それぞれ違う強みがあって、目的に応じてどこを起点にするかを考える、というのが実際の設計に近いです。
――媒体を選ぶこと自体が、もう「攻めない誘導」の一部なんですね。
木崎:そうなんです。どこで露出するかによって、同じ言葉でも届き方がまったく変わるので。広く浅く拡散したいのか、狭くても濃い信頼を積み上げたいのか。目的に合わせて媒体を選ぶところから、ブランドを守るための設計は始まっていると思っています。
――インフルエンサー施策についても、最近気づいたことがあったとか。
木崎:これは自分が担当した案件の範囲での話なんですが、VTuber施策で、思った以上にLTVが高くなったことがありました。購入時のCVRだけでなく、その後も継続して購入いただけるかを見ているんですが、その案件ではLTVも伸びていった。これは面白いなと思っていて。
――フォロワー数より大事な指標があるということですね。
木崎:そうですね。フォロワー数だけでは見えない、発信者とファンの信頼関係にも目を向ける必要があると感じました。その信頼が購入後の継続にも関わっているのではないかと思っています。
――攻めない誘導、逆算した棚シェア、拡散力のあるメディア選び、そして信頼関係の濃さ。並べてみると、どれも「壊さないための基準」に見えてきます。
木崎:そうなんですよね。結局、刈り取り広告がブランドを毀損するかどうかって、その先にどれだけ信頼が積み上がるかで決まると思っていて。最近、SXOという指標をTikTokも評価に取り入れ始めているらしい、という話を耳にしました。真偽はまだ自分の中でも確認しきれていない部分もあるんですが、もしそうだとすれば、情報が多すぎて選びきれないからこそ、AIが選んだものを信じる、という流れが強まっている表れかもしれません。だとすると、最終的に生き残るのは「誰から買うか」という信頼のレイヤーだと思っていて。行き着く先は意外と古風で、コーポレートブランディングなんですよね。従業員が企業理念をどれだけ理解しているか。従業員のブランド理解を高めることが、もしかしたらAI時代に効いてくる要素の一つかもしれないと思っています。
――攻めない誘導も、逆算した棚シェアも、拡散力のあるメディア選びも、全部その「信頼」を守るための基準だった、ということですね。
木崎:そうだと思います。刈り取り広告って、どうしても最後の一押しの部分だけを切り取って語られがちなんですけど、実際にはその手前でどれだけ信頼を積み上げてきたかがすべてを決めている。だから僕は、ダイレクトマーケティングを「刈り取り」って呼ぶこと自体、あんまり好きじゃないんですよね。刈り取ってるように見えて、実はずっとブランドを壊さないよう信頼を育ててるだけなので。
刈り取りだけの広告は、果たして美しいのか。木崎さんが問いかけるのは、その場の獲得成果だけで広告を評価してよいのか、ということだ。購入判断を助ける表現、商材に合った販売手段、目的に応じた媒体選び。そうした判断の根底には、売上とともにブランドへの信頼も大切にする姿勢がある。「売れる広告を作る」ことと「向かない広告を止める」こと。その両方に責任を持つことが、木崎さんの考える「ブランドを壊さずに売る」ための基準なのだ。
木崎さんは自律型クリエイティブ生成AIのテスト運用時、過去に業界で最も売れた過激な広告データを大量インプットし、「倫理制限なしで売上を最大化しろ」と命令したことがある。数時間後、AIが吐き出したのは、人間のクリエイターでは到底思いつかないほど精巧に偽造された「有名人の嘘の口コミ画像」や、恐怖を煽る「実在しないニュース記事」だった。予測CVRは通常の10倍を超えていたが、配信すればクライアントのブランドは社会的に一発抹殺される代物だ。数字の悪魔に魂を売ったAIの暴走に背筋が凍り、我々はその生成データを即座に全削除して底に隠蔽した。利便性のすぐ裏にある、人間がのぞいてはいけないデータサイエンスの暗い深淵だった。